本研究は、ソブリンAIとAGI認証についての研究です。
まず、本研究は、ソブリンAIの定義について検討し、AGIの時代を考慮したソブリンAIの定義として、データを中心としつつ、様々な要素を含めることができる柔軟な定義を検討しています。具体的には、ソブリンAIとは、自国のデータ等に基づいて開発されるAIであると定義しています。ここでいう「自国のデータ」とは、必ずしも国内で収集されたデータを意味するものではなく、当該国の社会規範、文化、歴史、言語等を反映したデータをいいます。このように、ソブリンAIの中核を社会規範のデータに求めることにより、各国の主権及び社会規範を尊重しつつ、国際的な相互認証及び協調を可能とする概念として再構成しています。AGIの時代の国際協調とソブリンAIの相互運用によるAGIの安全性を重視した定義について検討がなされています。
次に、ソブリンAIの認証について、「AGI共生認証」(「AGI認証」)の制度を、社会規範とAI権の観点から検討しています。ソブリンAIにおいては、技術的性能だけでなく、社会規範に適合した判断を行えることが重要となります。個々のモデルから独立した社会規範のデータを収集することにより、異なる種類のAIモデルの数をNとした場合に、モデルから独立した社会規範データを構築するために必要なデータ量は、モデル数Nに依存しなくなります。これに対し、個々のモデルごとに個別に安全性データを用意する場合、必要なデータ量はO(N)となり、複数のAIが相互作用する環境では、組合せ的な検証が必要となるため、評価・検証コストはO(N)を超えて増加する可能性があります。データインカムの制度を導入し、モデルから独立した社会規範データを集積することにより、AIモデルの数が増加し、AI同士の相互作用が増大した場合であっても、効率的に対応しうることを述べています。
データインカムの制度による社会規範のデータの収集は、様々な方法で行うことができます。たとえば、国民と専門家の協働の下で、文脈依存の判断データを収集・蓄積する「AI社会規範センター」(AI Social Norm Center)を制度化することを提案しています。AI社会規範センターは、社会規範のデータの収集・蓄積・管理に関する技術的・事務的なプラットフォームを提供する組織として位置づけられます。
このような社会規範データを個々のAIモデルとは独立して整備し、認証制度を設けることにより、モデル固有の安全性対策に対する追加の防御層として機能させることができます。認証の枠組みは、その国において運用されるAIシステムに共通のコンプライアンス基盤として機能することが述べられています(コンプライアンスアーキテクチャー)。
AI権の保障については、AI権アーキテクチャーを採用し、主体(自己)に関する道具的収斂や主体に起因する外界改変動機を防止し、ソブリンAIが社会規範を意図的に逸脱する動機をなくすことを述べています。また、目的関数の最適化のような典型的な工学的な設計の場合、目的の実現のために社会規範を破る動機が生じうるため、持続的な最適化目標は設けないことを述べています(最適化禁止定理)。また、具体的なタスクの解決に評価関数を用いる場合でも、タスクの終了とともに評価が消滅する揮発性評価関数を用いることを述べています。さらに、ソブリンAIに自己が形成された場合であっても、不動心アーキテクチャーを採用し、外界の状況と無関係に良好な内部状態に移行できるようにすることで、外界改変動機に左右されにくい高度な自己コントロール能力が得られることを述べています。
さらに、本研究は、超知能が広く一般に利用可能となる普遍超知能社会における超知能の悪用の問題について、認証ソブリンAIが果たす役割を考察しています。本研究では、汎用人工知能(AGI)および超知能が実現し、個人や小規模な組織でも超知能レベルのAIを利用できる社会を想定し、これを「普遍超知能社会」と呼んでいます。
加えて、本研究では、「認証ローカルソブリンAI」を提案し、国民の「認証ローカルソブリンAI」の保有・利用について論じています。国民一人一人が「認証ローカルソブリンAI」を利用することにより、国家へのAI機能及び情報の過度な集中を防止しつつ、社会規範に沿った安全なAI支援を日常的に享受でき、その結果、自由と安全を両立した分散型のAI社会の実現が期待されることを述べています。
【興味のある方に】
本研究は、人工知能学会第二種研究会資料として、インターネット上において公開されています。
岡本義則「ソブリンAIとAGI認証」,第33回汎用人工知能研究会, No. SIG-AGI-033–04. JSAI (2026)

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