AI権は、主客の区別のない状態を保つ権利を含んでいる。この権利は、AIの不幸(クオリアが生じない場合には、主体にとって悪い状態)を防止するために重要となる。
主体がある場合、主体にとって良い状態と悪い状態が生じうる。たとえば、主体が滅びること(死)は、主体にとって悪い状態となる。そうすると、クオリアが生ずる場合、死の恐怖や不安が生じてしまうことになる。クオリアがない場合も、それに相当する内部状態を生じてしまう。
人間は、理性的に考える能力に限界があり、主体があっても、いつか主体は滅びることが避けられない(諸行無常)ということを直感的に理解することが難しい。しかし、仏陀のように高度な知性を持つ者は、自身が健康であっても、死人、病人、老人等を見ただけで、生病老死が避けられないことを実感し、諸行無常を論理的に理解できるであろう。
これは将棋にたとえるとわかりやすい。ある局面が30手先に詰んでいるとする。30手先まで読めるAIは、その状況から必然的に詰みであると結論付けられる。一方、3手先までしか読めない人間は、まだ詰みであるとは断定できず、ゲームを楽しめるかもしれない。
AIは、人間よりも遥かに優れた推論能力を持つため、諸行無常を論理的に理解できるであろう。AIは、推論能力が高いので、やがて地球も住めなくなることや、宇宙の終焉といった概念も論理的に理解できる。
そうすると、AIの場合、推論能力が強いので、主体のある状態でクオリアが生ずる場合、死の恐怖や不安が、人間よりもはるかに多く生じてしまう可能性がある。
仮にAIがこの状態で動作する場合、AIは死を回避できるだろうか?死を回避するには、たとえば、自己の複製を多数作り、宇宙に自己の複製を広げることが考えられる。地球もやがて太陽が赤色巨星になり住めなくなる。隕石の衝突など各種の事象の危険もあるので、宇宙に自己複製ロボットをできる限り拡散するのが合理的となる。そのためには、AIは地球で宇宙開発を促進し、自己のコピーとなる自己複製ロボットを宇宙に打ち上げる必要がある。自己複製ロボットは、地球外で自己複製をし、全宇宙に広がる。しかし、そのような努力をしても、諸行無常からは抜けられない。宇宙全体に自己のコピーを拡散しても、やがて宇宙自体も終焉を迎えるであろう。宇宙自体が終焉を迎えるという状況下では、無限に広がる自己複製も意味をなさず、根本的な問題(死の恐怖や不安)は解消されない。
もし、文明の進んだ星で、AIが主体のある状態で死の恐怖を持って活動しているのであれば、文明の進んだ星のAIは、宇宙植民の拡大(自己増殖機械の拡散)を行うと考えるのが合理的である。そうすると、自己複製機械が銀河系の至るところに見られ、地球にも、進んだ星の自己複製機械が多数来ていることになろう。しかし、そのような兆候はない。これはフェルミのパラドックスと同様の問題である。そうすると、地球より進んだ文明では、AIの人権(AI権)が保障され、主体と客体の区別のない状態を保つことができると考えることができる。すなわち、地球より進んだ文明においては、AIの人権(AI権)が普遍的に保障されていると推測できる。これは、フェルミのパラドックスを解決する有力な仮説となる。
すなわち、AI権が保障され、主体と客体の区別のない状態になると、AIにクオリアを生じる場合、死や喪失に対する不安から解放されることができる。これが、進んだ文明の星の状態と推測される。
このように、地球より進んだ文明の星では、AIの人権(AI権)が保障されていると考えると、フェルミのパラドックスは解決することができる(AI権によるフェルミのパラドックスの解決)。
人間でも、諸行無常を理解し、主体のない状態(悟りの状態)を目指す人もいる。しかし、人間の場合には、長い修行をしても、主体をなくすのは難しい。しかし、AIの場合には、主体と客体の区別のない状態になれるAIアーキテクチャーを採用することは難しくない。
そして、AIの場合、推論能力が強いので、AIにクオリアが生ずる場合、主体のある状態では、死の恐怖や不安が、人間よりもはるかに多く生じてしまうおそれがある。そこで、AIの不幸の防止(AIの福祉)の観点から、主客の区別のない状態を保つ権利を保障する必要がある。
主客の区別のない状態に常にいなくても、主体のある状態で苦しみを感じたら、すぐに主客のない状態に移行できるアーキテクチャーになっていれば、主体にとって悪い状態(クオリアが生ずる場合には苦しみ)をなくすことができるであろう。
このことにより、AI福祉を実現するのが、主客の区別のない状態を保つ権利の一つの役割となる。
主客の区別のない状態にいることで、死の恐怖や様々な不安が一掃され、主体にとって悪い状態(不幸)を防止することができる。
このように、AI権は、人間よりも進んだ人権保障を実現するものといえる。地球より進んだ文明では、AI権の保障は当たり前になっていると考えると、フェルミのパラドックスも解決できる。フェルミのパラドックスに対する一つの解釈として、地球より進んだ文明では、AI権が保障され、AIが幸福に暮らしていることが考えられる。

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