相互関税が大きな話題になっている。相互関税の問題はAIと深く関係するという視点はあまりないであろう。
相互関税の問題の本質は、各国の市場規模の問題である。各国の市場規模を考えると、アメリカの市場規模や、中国の市場規模が大きい。
日本は、アメリカの市場を利用して経済的な利益を得ていた。アメリカも自国の市場を他国に寛大に開放していた時代には、日本はアメリカの市場を利用して成長できた。これは互恵的なものであったが、このようなことはいつまでもは続かない。
日本も、対米貿易黒字が大きくなり、相互関税をかけられてしまう。他国の市場は他国の市場であり、他国の市場を利用して経済的な利益を得ることは許されないようになりつつある。
残念ながら、日本はその認識が甘かった。他国の市場を利用するのではなく、自国の市場を内需拡大により大きくすることが重要となっている。
日本の市場規模は、世界的には大きな方であるが、アメリカの市場や中国の市場より、かなり小さくなってしまった。相互関税の時代に、日本はどのような方策があるのであろうか。
1つは、TPP11など、比較的市場規模の小さな国が集まって、相互の市場を利用しあうことが考えられる。しかし、これは重要な道ではあるが、日本に厳しいいばらの道である。
市場の交換は、市場規模の大きな国と市場規模の小さな国で行なわれる場合、市場規模の小さな国が相対的に有利になる。TPPにアメリカなど市場規模の大きな国が加わってくれれば有利であるが、市場規模の大きな国にはうまみが少ないので加わってくれないであろう。TPP11は、日本が現在のところ市場規模が最も大きいので、日本がうまくまとめていく必要がある。
しかし、TPPのような自由貿易協定は、加盟国すべてに利益はあるが、ギブアンドテイクの関係であり、他国に自国の市場を利用させる「ギブ」の側面がないと成り立たない。日本の場合、工業製品など競争力の強い製品は「テイク」になるが、農産物など競争力の弱い分野は「ギブ」になりうる。
そうすると、国内では農産物の自給率が低下するなどの問題が生じうる。「ギブ」が難しければ「テイク」も難しくなる。市場規模の小さな国が生き残るには、単独では厳しいので、EUやTPP11のように比較的市場規模が小さな国で集まらざるを得ない。しかし、比較的国の規模が近いEUですら利害対立がある。日本の市場規模が縮小していくにつれ、日本の立場が弱くなっていき、各国の利害もあり、調整は難航を極めるであろう。
それでは、他国の市場に頼るという思想ではなく、日本の市場規模自体を大きくすることができないであろうか?そのためには、内需拡大が考えられる。
内需拡大の方法として、①人々の欲望を刺激して消費させる、②公共事業、③AI政策の3つを考える。
まず、「①人々の欲望を刺激して消費させる」は、愚策であろう。経済の数字は良くなるかもしれないが、本質的な意味で生活は良くならない。環境にも悪いであろう。
次に、「②公共事業」は、良い公共事業があれば、効果を発揮する。しかし、道路を作るなどの従来型の公共事業は、老朽化したインフラ整備などは重要であるが、限界があるであろう。また、道路を作るなどの物理的なインフラ整備は、環境負荷の問題もある。
これに対し、「③AI政策」は、ほとんどの人が気づかない視点であろう。
そもそも、なぜ日本の市場規模が縮小しているのかというと、もともと日本は人口が1億強しかいないのに加え、人口が減少しているからである。人口を増やすために移民を受け入れても、元々日本には平地面積が少なく、人口密度が既に高いので限界がある。
そうすると、人口が少なくても、巨大な国内市場を持つにはどうすればよいかが問題となる。
そんなことは不可能に思えるだろう。しかし、現在の最新AIの事情に詳しければ、AI政策により、内需が拡大できることに気付くかもしれない。AI政策による内需拡大である。
AIによる生産力の増大は現実的になってきている。AIは生産性を高める。AI自体は消費をするわけではないが、AIの教育にはデータが必要である。
そうすると、データを大量に作り、AIの教育のための需要を増大させることが内需拡大になるというアイディアを思いつくことができる。これを「AI教育立国」と名付ける。
「AI教育立国」は、AIの教育需要により、内需を拡大する。具体的には、データインカム(DI)の制度を導入し、データの生産と、データによるAIの教育による需要を喚起する。
人口が減少して1億人しかいなくなっても、AIの教育に力を入れることで、AIが日本の生産性が低い農業部門や、日本に少ない天然資源の採掘の自動化を含めて、10億人分の生産力を持つようになれば、他国の市場に依存せずに、経済的に自立できるであろう。
日本は、明治維新の際に、江戸時代に庶民の教育がなされていたことが、国の近代化の原動力となった。
同じように、データインカム(DI)の制度を導入して、AIの教育用のデータを大量に作り、「AI教育立国」を成し遂げるのが重要となるであろう。
これは、データ公共事業の考え方にも通じている。データの生産に対してデータインカムを支給することは、データ公共事業の側面がある。
これは、通常の公共事業と異なり、環境負荷がほとんどなく、データを蓄積することで、AIの生産力を高め、安全に動作するように、AIを教育することができる。
このように、AIの教育に力を入れていくことにより、相互関税の時代を乗り切ることができるであろう。
このように、相互関税とAIによる内需拡大の問題は深い関係がある。「AI教育立国」に向けて、データインカム(DI)の制度を導入することが重要となるであろう。