ベーシックインカムと技術的失業

AIの進歩は速く、今後はAIの性能が急速に向上し、人間の労働を代替していくことが考えられます。人間の労働が、全部AIに置き換えられることはないでしょうが、ある程度の割合が置き換えられた場合、社会において、失業の問題が生じます。いわゆる技術的失業の問題です。

また、たとえば技術的失業が労働者の30%に生じた場合、人間に残された70%の仕事に多くの人の応募が殺到し、技術的失業をしていない者の労働条件も下がっていき、生活できない者が増加するおそれがあります。このように、技術的失業の問題に対し、ベーシックインカムによる対策が必要となると思われます。

ベーシックインカム(BI)は、全ての国民ないし市民に、無条件で基本的な収入を定期的に支給するものです。

技術的失業の割合が大きくなった場合、失業者や労働条件が悪くなった実質的失業者に対し、生活保護を支給することで問題を解決できるでしょうか?

これは難しいでしょう。技術的失業の割合がある程度以上に大きくなると、生活保護の認定等の社会コストが大きくなりすぎ、生活保護のみでの対応は困難でしょう。また、生活保護は生活等の制限が大きく、この点からも好ましくないでしょう。

憲法第25条1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」としています。技術的失業をしている人も、この権利を有します。

そうすると、ベーシックインカムを支給して、技術的失業に対する対応をすることが考えられるでしょう。もちろん、個別の事情で、ベーシックインカムだけでは給付額が足りない人もいるので、生活保護は併存することになります。

多くの人がベーシックインカムを受けられるようになれば、例外的にベーシックインカムだけでは給付額が足りない人にのみ生活保護の認定をすればよいので、生活保護の認定等の社会的コストを削減することができるでしょう。

なお、憲法第27条1項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」としています。しかし、AIの時代には、技術的失業は当たり前になり、運よく失業しなかった者も、人間に残された限られた仕事に人々が殺到するため、労働条件が悪くなることが考えられます。今後のAI社会において、ベーシックインカムの支給が憲法27条1項に反するとはいえないでしょう。

このように、AIの時代には、ベーシックインカムの実現が必要となると思われます。最初は、月額1万円など、勤労意欲を低下させないレベルの給付から始めることが考えられるでしょう。

AIの生産力が上がるにつれて、技術的失業の割合が多くなり、技術的失業を運よく逃れた人の労働条件も悪くなっていく可能性があります。AIの生産力に応じて、ベーシックインカムの給付額を増加させていくことが考えられるでしょう。

このように、ベーシックインカムの給付額を大きくするには、AIの生産力を高める必要が出てきます。

ベーシックインカム自体は、AIの生産力を高めることができません。そこで、ベーシックインカム(BI)だけではなく、協力インカム(CI)、データインカム(DI)を総合的に検討することが提案されています(AI・BI・CI・DI構想)。

特にデータインカム(DI)は、AIの生産力の向上に役立つデータを集積でき、すべての人が望めば得られる確実な収入源となり、ベーシックインカムを補完する力が大きいものです。

ベーシックインカムの支給を受けているが、時間があまっている。しかし、人間に残された仕事には、志望者が殺到しており、人間に残された仕事に応募しても落とされ続けるか、運よく採用されても労働条件が極めて悪いという社会になってしまった場合、データインカム(DI)は、経験・経歴・年齢等にかかわらず、自宅でも作業ができ、すべての人が望めば得られる確実な収入源を作り出して、社会の状態を良くするという意味でも重要となるでしょう。

このように、ベーシックインカムの議論をする場合には、ベーシックインカム(BI)だけではなく、協力インカム(CI)、データインカム(DI)を総合的に考えていく必要があるでしょう。

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